『コンプリート・レコーディングス』前夜の精緻な評伝
この原稿を書くために、久しぶりに本書を読み返してみました。そして序文にて、“(マック)マコーミックは、ジョンスンの生涯に関する情報の巨大な空間を埋めるべく、長い道のりを歩み、一九七六年に本を完成したと発表した”という記述を確認───あれ? これを読んだなら絶対に調べたんだけど、心当たりがない。ここでは仮題として『ある亡霊の伝記』と書かれている。
ということで改めて調べたら、2023年に『Biography of a Phantom: A Robert Johnson Blues Odyssey』が出版されていた……!
民族音楽研究家マック・マコーミック(1930-2015)の没後、彼のコレクションの一部を収録した『Playing for the Man at the Door: Field Recordings from the Collection of Mack McCormick 58–71』というボックス・セットが発売されました。
当然入手したのですが、英語がてんでダメでして、マコーミックの娘=スザンナ・ニックスが筆をとったブックレットは、チラ見しかしておらず……。改めて読み返すと、“マコーミックのプロフェッショナルとして納得する域に達していなかった”ということで出版されていなかった、ピーター・ギュラルニックが本書で語る貴重な資料が、(マコーミック的には未完成ではあるが)ようやく出版されたんです。
原書を即ポチり、ひとまず到着を待ちます。
さて、本書はロバート・ジョンソンの謎に包まれた正体に迫った1冊です。ピーターによるさまざまな文献の参照、ジョニー・シャインズやロバート・ロックウッド・ジュニアを始めとする関係者への取材、そしてマック・マコーミックのリサーチによる新情報をもとに、悪魔に魂を売ったという伝説と人間的な側面をクリアに描いています。
原書である『Searching for Robert Johnson』が出版されたのは、1989年。翌年に発売されることとなる『The Complete Recordings』についても、しっかりと言及されています。
そして、三井徹氏による翻訳版が出版されたのが、1991年。打田十紀夫氏曰く、女子高生までもがCDショップで購入したという『The Complete Recordings』。本書が当時どのように受け止められたのかは、非常に興味深いです。
ピーター・ギュラルニックが描写する“ロバート・ジョンスン像”は、本当にドラマティック。取材をした人によって異なる証言、合致する表現を、想像の余地をたっぷりと残しながらフラットに紹介してくれます。
主観は入りすぎず、しかし愛が溢れるレコメンデーションは、全ブルース・ファンが等しく心揺さぶられるもの。
“今はさらにロバート・ジョンソンの新しい情報がある”という人がいるかもしれませんが、それらのほとんどが、ピーターがまとめたこれまでのRJ論とマコーミックによって集められた証言や証拠に基づくものであり、それらをどう解釈するか、という視点でしかないように思います。
まだ邦訳されていない、マコーミックの著書をもって、新たな通説が流布することになっても良い。ロバート・ジョンソンに関しては、まだ確固たる正解はなく、それがロマン。しかしながら、その偶像に輪郭を与えてくれる、ピーターやマコーミック、サミュエル・チャーターズらには感謝の念しか生まれませんね。
あぁ、マコーミックの『ある亡霊の伝記』、早く読みたいっす!
ロバート・ジョンスン 伝説的ブルーズマンの生涯
著者 | ピーター・ギュラルニック |
翻訳 | 三井徹 |
判型 | 四六判 |
ページ数 | 160P |
定価(発売当時) | 1,311円(税抜本体価格) |
初版発行日 | 1991年11月1日 |
出版社 | JICC |
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